医師の転職や開業時に起こりやすいトラブルとは

医師の転職や開業時に起こりやすいトラブルとは

契約書をもう一度見直そう

医師の転職や開業時に起こりやすいトラブルとは

医師がそれまで勤務していた医療機関から転職したり、退職して開業する際には、トラブルになりやすいことが知られています。 しかしこのようなトラブルは、ちょっとした知識を備えているだけで回避できるのです。 実際に多いトラブルや、トラブルにならないよう取るべき方法についてご説明しましょう。

 

100%とは言えない法的判例

最初に理解しておいていただきたいことは、この記事に書かれていることは法的問題に関することであり、裁判の判例がこのような結果になっていることが多いとしかご説明できない点です。

法的トラブルは、全く同じ背景であるとは言い難く、似た状況であるからと言っても100%同じ判断になるとは言い切れません。

万が一トラブルになった場合、過去の判例ではどういう判断になっているのかを理解しておくことは非常に有効でしょう。

転職先を患者に伝えて誘う行為

医療機関から転職する際、今まで長い間診てきた患者に対して何も告げずに転職することは、無責任に感じる医師も多いでしょう。

転職することや転職先名ぐらいはせめて告げて転職したいと考えるのは当然だと言えます。

しかしここで気を付けたいのが、転職先の医療機関に受診しに来るよう患者を誘う行為です。

転職先に誘うことは、損害賠償の対象となってしまうケースがあります。

すなわち、転職することや転職先の医療機関を伝えることは問題にはなりませんが、何度も医療機関名を伝えたり、受診しに来るよう伝えること、退職する医療機関に対する誹謗中傷などは違法とみなされるわけです。

患者からすると、信頼しているのは医療機関ではなく、診察や治療をしてくれている医師に対して信頼感を抱いているわけです。

その医師から通っている医療機関の悪口を聞かされたり、転職先に誘われると、ほとんどの患者は転院してしまいかねませんので、そのような行為は慎まなければなりません。

勤務先にある情報などを持ち出す行為

退職する医療機関から、自分が今まで診察・治療した患者のカルテや、カルテに書かれている情報を持ち出す行為は、守秘義務を守らず、なおかつ個人情報保護法にも抵触します。

また医療機関の内部資料やマニュアル関係も、医療機関に勤務する際はほとんど契約している秘密保持契約に含まれるため、持ち出し禁止となります。

カルテや内部資料などは、最近では紙で保存するのではなく、データとして保存しているケースがほとんどです。

そのため、これらデータのファイルも持ち出し禁止となります。

これ以外には、書類やデータなどの保管場所に鍵もしくはパスワードがかかっており、その鍵・パスワードを特定人物しか持っていないか、知らない場合には、その書類やデータなどは持ち出すことはできません。

持ち出してしまうと、不正使用差し止めにあったり、損害賠償の請求対象となってしまいますので注意しましょう。

開業に際して留意しておきたい競業避止義務

医療機関から退職し、自分で開業するケースで問題になりがちなのが、競業避止義務です。

これは競合するような医療機関を自ら設立してはならないという義務のことですが、通常医療機関に勤務している間は競業避止義務が発生しますが、一般的に退職後は職業選択の自由があり、競業を禁止する義務を負うことはありません。

問題になるのは、医療機関に入職した際に契約書を交わし、その中に競業避止義務について記載されている場合です。

契約書の記載内容が妥当性のある内容、すなわち競業を禁止するエリアや禁止する期間などが適正である場合には有効であるとの判断が裁判所から示されています。

競業避止義務を契約書に記載している医療機関の場合、その多くは競争相手を増やさないためか、競業を禁止させることで退職しにくくさせる意味合いが多く、それでは有効とはみなされません。

また契約書に競業避止義務についての記載がなかった場合は、競業を禁止する義務を負うことはありませんが、社会通念上、自由に競争するという意味から大きく逸脱するような行為は損害賠償責任を問われることもあるので注意が必要です。

競業避止義務には色々なケースがあり、一概に判断できないケースも多くあります。

契約書に競業避止義務のことが記載されており、開業はそれに抵触すると思えるような時には、弁護士に相談することが最良の方法でしょう。

スタッフを引き抜く行為

医療機関で勤務していた際に信頼でき、気も合っていたスタッフを開業時に引き抜きたいと考えるケースもあるでしょう。

本来、誰にでも職業選択の自由はあり、どのような職業に就くことも自由です。

退職・開業する医師が医療機関からスタッフを引き抜いても問題にはなりませんが、引き抜きそのものが、常識外れのものであった場合にはやはり損害賠償請求の対象となる可能性もあるので注意しておきましょう。

勤務先を退職する際に留意しておくべき事

医療機関から転職したり、退職して開業する際にトラブルになりやすいケースをご説明しましたが、一番多いミスは、契約書の内容を確認していないケースです。

入職時に転職や開業について意識していなかった場合には、契約書にこれらのことが記載されていたことを忘れてしまっているケースも多いでしょう。

転職や開業を決める前に、必ず契約書を確認するようにしましょう。