医師の年収は公立医療機関と民間医療機関で何故違うのか

医師の年収は公立医療機関と民間医療機関で何故違うのか

黒字施設が少ない公立医療機関

医師の年収は公立医療機関と民間医療機関で何故違うのか

医師の転職先としては色々な医療機関があります。 その中でもほとんどの医師が検討するのは、病院と呼ばれる医療機関でしょう。 病院にも色々な種類のものがありますが、大きく区分すると自治体などが運営している公立医療機関、それに医療法人や個人などが運営している民間医療機関に分けられます。 一般的に、医師の年収は公立医療機関と民間医療機関を比較すると、民間医療機関の方が高いと言われていますが、それは事実なのでしょうか。 またどうして民間医療機関の方が年収は高くなるのでしょうか。 詳しくご説明しましょう。

 

公立医療機関と民間医療機関における通説

公立医療機関と民間医療機関では、医師の間で通説的に言われていることがあります。

公立医療機関では、年収は高くなく、時間外などの手当が十分でないことや医師がアルバイトできないということです。

一方、民間医療機関では、年収が高めではあるものの、経営サイドから利益を上げるように指示が頻繁にあると言うことです。

これらはもちろん全ての医療機関が同様であるとは言えませんが、このような傾向が見られることは、医師であれば誰もが知っている事柄でしょう。

公立医療機関と民間医療機関での平均年収額の違い

通説のように、公立医療機関に勤務する医師の年収は、民間医療機関に勤務する医師よりも低いのでしょうか。

厚生労働省が平成27年に実施した第20回医療経済実態調査のデータで、病院に勤務する医師の平均年収を病院開設者別に比較することができます。

国立医療機関、公立医療機関、公的医療機関、社会保険医療機関、医療法人、その他、個人別で年収が分かれており、このうち公立医療機関勤務医師の平均年収は1,494万円、一方民間医療機関である医療法人勤務医師の平均年収は1,544万円となっています。

民間医療機関に勤務する医師の方がおよそ50万円高額となっています。

公立医療機関に勤務する医師の年収は何故低いのか

ではどうして公立医療機関に勤務している医師の平均年収は低くなってしまうのでしょうか。

厚生労働省の平成27年度病院経営管理指標では、医療機関の収益性を示す医業利益率や経常利益率などだけでなく、経営の健全性を示す自己資本比率や借入金比率なども記載されています。

それ以外にも各施設がどの程度機能しているかを示す平均在院日数や医師一人当たりの患者数なども表示されています。

このデータによると、公立医療機関には大きな特徴があることが読み取れます。

公立医療機関には黒字経営が少ない

医業収益を見ていくと、公立医療機関における黒字経営比率は12%ほどとなっています。

その一方で、民間医療機関である医療法人での黒字経営比率は65%ほどでした。

これはすなわち、公立医療機関のほとんどが赤字経営に陥っているということです。

本来公立医療機関は、国民の健康を維持するのに必要な医療機関であり、地域住民が少なく、患者も少ない状況であっても閉鎖するわけにはいきません。

そのため、赤字経営を続けていくしかない状況であるのですが、赤字を補っているのは自治体などです。

赤字の補填を税金で運営されている自治体に頼る以上は、勤務している医師の年収を引き上げることが困難であることは容易に想像できるでしょう。

公立医療機関は人件費率が高い

人件費率のデータでは、公立病院の人件費の方が10%以上高いというデータが出ています。

これには人件費率の算出方法に理由があります。

人件費率は収益の中で人件費がどれ程の比率になっているかを示しているため、収益そのものが少なくても人件費率は上がってしまうのです。

実際に医療機関運営に必要な費用である固定費や材料費などに人件費をプラスした総額のうち、人件費の占める割合を調べてみると異なったデータが浮かび上がってきます。

公立医療機関での人件費割合は33%ですが、民間医療機関ではそれより1%多くなり、人件費率とは逆の結果になっています。

これは収益そのものが少ないために数字上はどうしてもこうなってしまいます。

しかしながらこれらの事実は、公立医療機関が医師の年収を高くすることは難しいと言うことでもあるわけです。

公立医療機関勤務の医師の利益は低い

データ内にある、医師一人が受け持つ入院と外来を含めた患者数と、一人の患者の一日あたりの入院と外来を合わせた利益とを計算すると、医師一人が一日にあげることの出来た利益金額が算出できます。

この金額を比較すると、公立医療機関は民間医療機関よりおよそ65,000円低い金額になります。

どうしてこのような差が出るのでしょうか。

実は医師が一日に対応する患者の総数に違いがあるため、このような結果になっているのです。

つまり公的医療機関の方が民間医療機関よりも入院患者で0.9人少なく、外来患者も2.9人少ないのです。

この人数の差が利益の差になって表れているのです。

公立医療機関と民間医療機関のどちらを選択すべきなのか

公立医療機関と民間医療機関の年収金額だけを比較すると、明らかに民間医療機関に軍配が上がることがお分かりいただけるでしょう。

しかしながら、年収が良いから民間医療機関への転職の方が有利と考えるには早計でしょう。

民間医療機関は受け持つ患者数が多く、その分忙しさも増すでしょう。

経営サイドから診療報酬を上げるよう指示もされます。

また医療機関そのものが倒産してしまう危険性もあります。

一方、公立医療機関に勤務すると公務員扱いとなり、退職金も期待できます。

また利益を上げるような支持はないでしょうし、倒産の危機もありません。

これらのことをトータルに判断して転職先を決めるべきでしょう。